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            エコデザイン            
 400㎡南向き出力49KW、売電収入160万円 ! どうやって計算する?
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2013.12.12  ソーラー発電の朝日新聞広告から
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研究ノート111111111111111111111111111111
radiometer
日射で回るオモチャ
2014.1.1
studio HAIYAMA

 ソーラー発電は世のため人のため、設置者は結局元がとれないのでは、と筆者は考えていました。ところが昨今はミニソーラー発電所の建設ブーム。補助金打ち切りを前にした駆け込み申請需要を目途に、遊休地や工場など大きなビルの屋根を持つ人にソーラー発電所経営を勧める新聞広告が出ました。幸い筆者は、日射の理論値を計算するエクセルプログラムを作っているので、数字を挙げて成果を公約していただいたのを機会に、計算過程をトレースしてみることにしました。これがわかれば何がわかるか-と自問自答の繰り返しでしたので、そのままQ&Aのかたちでお伝えします。
Q1.出力49KWとは?                      
A1.出力とは共通の測定条件で測定したソーラーパネルの公称最大出力を指し、49KWを単位面積㎡当たりに直すと49KW/400㎡=0.12KW/㎡(120W/㎡)の出力となります。自動車エンジンの最大出力のようなもの、ただし燃料は、これ以上は望めない環境(例えばエベレストの頂上とか)を想定した出力1000W/㎡(1KW/㎡)の模擬太陽光です。メーカーが競っているソーラーパネルの本当の性能は、日射エネルギーを電気エネルギーに変える変換効率(12~19パーセント)なので、こちらをPRした方が分かりやすいと思われるのですが、それではパワーが感じられないせいか、パネルの大きさがまちまちで使いようがない数値KWが電気店の店頭を飾っています。出力KWというと、まるでソーラーパネルが発電しているかのような数値表示ですが、パネルの正体はエネルギー変換器、実際に発電しているのは日当たり良好の屋根の方です。パネルは普通は固定式なので太陽光は斜めに当たり、49KWの前提(垂直入射)はすぐに崩れてしまいます。
*KWとKWHの違い
 KWは1時間当たりの仕事率KW/㎡KWHは1時間の仕事量(この場合は電力量)KWH/H㎡を指し、つまり通分しないでおくと「量」、通分すると「率」になります。1990年以降、すべてのエネルギーの標準単位としてKWHを使う国際ルールが決まり、馬力もカロリーも今は(公的には)使われていません。栄養学だけはカロリーの使用が猶予されていますが(ちなみにカロリーは量の単位です)、いずれ改まるでしょう。今日は
○○KWH食べた、ヤバい-というふうに。
Q2.ではこの広告で使うパネルの変換効率は不明?                   
A2.量販電気店頭を飾るソーラーパネルのKW表示の無意味さを日頃不満に思っていたので、つい歳甲斐もなく(歳相応に)ムキになってしまいましたが、この広告にはソーラーパネルの変換効率が含まれて(隠されて)いました。先ほど何気なく計算した単位面積当たりの出力0.12KW/㎡は1KW/㎡の模擬太陽による発電出力ですからその比は0.12、12パーセントです。パネルのカタログを見ると変換効率は0.12~0.19程度とあり、広告の数値は控え目ということになります。400㎡をぴっちりパネルで埋め尽くすのは不可能で、通路を含めたすき間があるのが道理なので、実質は変換効率15パーセント程度のパネルを想定しているのだと思われます。
Q3.日射量の予測はどうやってする?                      
A3.地球の大気圏外に降り注ぐ日射量は1.353KWH/H㎡、地上には大気によってやや減衰した日射が降り注ぎます。私が広島で測定した透過率(業界ではエアマスと呼ばれているようです)は、7月晴天時で最大70%でした。ちなみに模擬太陽の日射量1KWH/H㎡は74%に相当します。太陽高度が低い時刻には当然透過大気層は厚くなるわけで、透過率は時刻によって変わります。また日射はパネルに斜めに入射するので、入射角度をθとすると、パネルの出力は垂直入射の場合のsinθに減衰します。例えばθ=30°のときはsinθ=0.5、実際には屋根の向きと、季節ごと時刻ごとの太陽位置をサインコサインを駆使して入射角度を求めてパネルに当たる日射量を計算しなければ、本当の日射量は求められません。ソーラーパネルの設置コストと販売利益の損得を計算するときは、さらにその地域の晴天率をエネルギー庁のホームページに尋ねることになります。
Q4.色々と分かったけど、ようするに南向き400㎡の屋根に当たる日射量と発電量の計算手順は?           
A4.夏至期6月20日の広島地方(北緯35°)日射量を、サインコサインを使って試算してみます。ところで屋根勾配は?。南向きとは?
  勾配屋根や傾斜地にパネルを設置する場合は「南向き」は意味を持ちますが、400㎡の勾配屋根はめったに無いので、ここではフラットな遊休地を想定します。個々のパネルに角度をつけると一見受照量が増えそうですが、それでできる影を避けてパネルを配置しなければならなくなるので、土地の広さに制約があるかぎり、結局、受照量は水平配置の場合と同じことになります。計算結果は次のとおりです。太陽高度による日射量の変化をお確かめください。
 まずエアマスについて。日射はサインコサインの計算で決まるとはいえ、大気の透過率エアマスは、見込み違いの元をなす何とも悩ましい数値です。日射はお天気次第ということは誰でもわかのですが、大気の厚みや透明度は気持ちにも計算にも乗りにくい。エアマスについてのエネルギー庁の取扱いがよく理解できませんでしたので、広島地方の6月20日前後快晴日の日射実測データ(エネルギー庁)から各時刻帯の日射透過率を求め、表中に「手書きで」記入してみました。下欄は日射量のトータル、エアマス係数の隣の日射量トータルは、太陽光の入射角を直角に保った状態での日射量です。右端の熱量単位MJはメガジュールと読み、熱量と電力をつなぐKWHの先祖筋の単位なので、こちらも公認されています。換算値はMJ=3.6KWHです。
 終日日射量は
6.32KWH/㎡、400㎡の屋根の終日日射量は
           
6.32 KWH /㎡day × 400㎡= 2,528 KWH / day    
 さて、この何パーセントが電力に変わる?。メーカーが公表した(ほのめかした)エネルギー変換効率は12%でしたから
            
2,528KWH / day × 0.12 = 303 KWH / day
 売電価格を
38円/KWHとすると(2013年度)とすると、6月中晴天が続いたと仮定した場合のひと月当たりの発電量と売電収入は
            
303 KWH /㎡day X 30 = 9,100 KWH / month 
            
38円/KWH × 9,100KWH= 345,830円
  となります。
30日間晴天が続いたと仮定しての話で、とらぬタヌキの皮算用、実際はこの数分の1です。1年間の売電収入を求めるには、以上の計算を12回繰り返す必要があります。
*メガジュールMJとは
 ワット
Wは1秒あたりの仕事率のどうのこうかのではなかったか-と高校物理をよく覚えている人が、むしろKWHが分からなくなるのですが、その答えがジュールJにあります。
            仕事率ワット
Wは1sec間に1ジュールの仕事をする割合 (= J / sec )、  W sec = J
    したがって 
1KWH =1000W × 3600 sec = 3.6 × 106 J = 3.6 MJ  
となります
Q5.それで1年間の売電収入は?
A5.各月ごとにエネルギー庁の広島地方日射実測データを参照しながら、なやましいエアマスの補正を繰り返し、次の集計結果を得ました。冬季は日射が透過する空気層が厚くなるので、筆者は相当悲観的な数字を予想していましたが、空気が澄んでくるにしたがって日射量は下げ止まり、予測以上の日射量が得られることがわかりました。
 年間売電予測は約320万円!、ただし1年間晴天が続いたら、の話です。メーカーがうたう160万円と比較すると、メーカーの晴天率予測は50パーセントだった-ということになります。実感と合いますか?。この晴天率予測は適正なのか、私のエアマス予測は厳しすないか、などの疑問が残りますが、これ以上の計算は仮定が増えるだけなので、一応これで打ち切りとします。
 以後は私の個人的感想ですが、400㎡160万円は妥当な数字ではないか-と思い始めています。というのは、エネルギー庁が出している各地方の日射実測データを見ると、数値が案外高いからです。私の計算値を比較すると、晴天率は50%どころか70%を超えています。私は直射しか計算していませんが、実際には散乱光の日射も加味されるはず、それが案外大きいのかもしれません。補助金が続くなら、私も前向きに考えてみたいですね 。
Q6.それで、その日射実測データとは?理論値とあるいは地域でどんな違いがある?
A6.このたび垣間見たばかりなので、まだ全体イメージが描けませんが、理論値と比較すると面白そうなネタが見つかりそうです。次の機会にはぜひ-。



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