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エコデザイン
ブリーズ・ソレイユ/
コルビジェがデザインしたソーラーハウス
0015
Dec../2008
灰山 彰好
studio HAIYAMA
  建築の分野で20世紀近代を切り拓いた巨匠ル・コルビジェは、近代建築が達成すべき最重要テーマは「涼風と太陽(Breise-Soleil)」である、と宣言した。ヒートポンプ式エアコンが完全普及する少し前、あるいはソーラーパネルがビルを覆うようになるよりはるか前、建築ボキャブラリー自体の工夫で住み心地をカバーしようとの発想であって、今でいうパッシブソーラーである。
 エコロジスト・コルビジェの事績を踏まえつつ、 ブリーズ・ソレイユ復活の可能性を展望してみたい。
■研究ノート to indexes

サン・ブレーカー!
 ブリーズ・ソレイユが広く認知されるのは第二次大戦後のシャンディガール、マルセイユのプロジェクト以後であるが、コルビジェ作品全集全8冊の第4分冊(1938-46)には、初期の開発過程の要約が英文で掲載されている。
 「・・・近代建築を最も際立たせている新技術はガラス窓であるが、未だ改良しなければならない技術でもある−というのは、緯度によっては、普段は人間の友である太陽がときには敵になるからである。ともかく、冬には太陽の効果を最大にし、真夏日dog-daysにはそれを防ぐための仕掛けdeviceを欠かすことができない・・・1933年、アルジェのアパートメントの南面と西面で、私たちは最初の日射防御システムsun-breakerをかたちにすることができた。」 
アパートメント模型、Algiers1933
 仏語にこめられたあや(亜弥ではない!)を尊重するために、日本人はブリーズ・ソレイユとせっかく難解に詩的に表現してきたのに、コル本人が許容した英語訳はsun-breaker(日除け)であった。換気に留意するも換気量の計量はしていないから、論文としてはこれでよかったのであろう。セル型、ロッジア型(低層アパート用の歩廊兼用型)、垂直フィン型(西面用)など、具体的な緯度別方位別設計マニュアルがまとめられている。
コルビジェによる太陽位置図
  セル型サン・ブレーカーをデザインするための太陽位置図が、作品集vol.8,p74、マルセーユのアパートメントのページに添付されている。理科年表からプロジェクトごとにその場所の太陽位置を求め、得意の作図の腕をふるったものと推察される。ただし日射利用に関する時代の要求精度はここまで、サン・ブレーカーの効果、つまり取り入れた、あるいは防御した日射の量についての言及はない。
 今日私たちは、構想力は凡庸であってもパソコンが使用できる。筆者の研究室で作成した日射計算プログラムHeat-1を使って、コルビジェの構想を後づけしてみよう。[

緯度別日射量
 大気の透過率を60%と仮定すると、地球上どこでも日射量は1時間当たり880Wh/uである。平方メートル当たりの1時間日射量は6畳用ストーブの発熱量の約1/4、冬期暖房用としてはもの足らないが、夏期には憎たらしい暖房効果である。水平の大地が受ける日射量は太陽高度hの正弦値sinhであるので、形成される平均気温は、赤道直下の熱帯雨林から半年は白夜が支配する氷雪原まで、緯度によって著しい差が生じる。Heat-1を用いて緯度別に水平屋根面horizontalと南壁面vertical/southの終日日射量を求めてみると、次のとおりである。

終日日射量(緯度10°例:パナマ) 終日日射量(緯度30°例:カイロ)
終日日射量(緯度50°例:フランクフルト) 終日日射量(緯度70°例:ムルマンクス)
12月には白夜が見られる
 まず水平面(屋根面)の終日日射量(1日を通じての−)を見てみよう。緯度10°の赤道下では四季別変化が小さく、いわゆる常夏であり、緯度が上がるに従って冬期の日射量のみが減少する。つまり、高緯度であっても夏は日照時間が長い分むしろ暑く、冬が寒いから平均的に寒いわけである。ちなみに夏期終日日射量の7000Wh/uとの数値は、6畳用ストーブを2時間ほど燃やした熱量である。
 南壁面の日射量を見ると、サン・ブレーカーの眼目が一層明らかになる、つまり、緯度が高くなるほど、太陽高度が低くなる分日射量が増える。高緯度のヨーロッパ人であるコルビジェであっても、日射はまず防御すべきものとして捉えた心情-ではなく知性が、以上の4図からよく理解できる。

マルセーユのアパートメント
 マルセーユアパートメントの住戸はご存じのとおり2間幅!のウナギの寝床、東面か西面の吹き抜けリビングの開口部に、朝か夕方、ものすごい量の日射が殺到する(下図参照)。
住戸の縦断面図 夏至における時刻別西面(左)、南面(中)日射量(緯度43°)
 住棟配置は当時は異例の南北軸型、そのわけは北側地面に大きな影を落とさないためである、と推察されるが、その結果、太陽高度が低い朝か夕に、リビングルームに、南面窓の場合の3倍ほどの日射が入る。ベランダ側壁と水平フィンで構成されるセル型サンブレーカーがこれを防ぐわけであり、筆者の試算によれば、吹き抜けリビングルーム側で56%、その反対の子供室側で72%低減している。大健闘である。
極北のソーラーハウス
 緯度35°(東京以西)の日本では、夏期南中時太陽高度は78°、したがって夏には太陽は頭上から、屋根の上に射すとの実感があり、そのせいか日射利用はすべて屋根の上で行う。しかし、コルビジェなど南中高度50゜台を経験するヨーロッパ人は、太陽は窓から射すものと実感しているのではないか。エアコンがあるとつい忘れてしまいがちな「窓からの日射」を、よく留意しておきたい。
 ところでーあるいは従って−、高緯度のイギリスでは日射採暖は南面窓から行う。石造レンガ造の厚い壁の外側にガラス温室(コンサバトリーconservatoryと呼ぶ)が備わる住まい、というのがおなじみの観光写真的風景であるが、実はガーデニングの趣味はそこそこ、コンサバトリーは実用的なリビングのエクステンションであって、ガラスの温室効果と壁の熱容量が暖房経費を大いに低減する。100%パッシブソーラーなので、晴天率とかコストとかを気にする必要もない。
 近年は断熱効果の低い石造りは観光用に限定、エコハウスは木造で建つ。その場合の熱容量は床をコンクリートにして確保する、とのことである。スコットランドの北端、北海に開けるフィンドホーンで見たソーラーハウスを以下に紹介する。冬季の太陽南中高度はたったの9゜(東京以西の日本では31゜)、白夜でないだけ幸いという極北の土地で、ソーラーハウスはよく効くのである。

 日本では、特に私が住む広島では、ソーラーハウスの意義はゆるぎないものとしても、ではどこに(夏か冬か、あるいは屋根か壁か)焦点を絞るか。多分ケースバイケース、無敵の万能ソーラーは実在しないのではないかと思うが、あえて断定的に言えば、設備コストゼロの石造りの縁側(コンサバトリー)をすべての住まいに備えたい−というより復活したい。これには近年の気がかり、住まいの引きこもり症候群を打開したいとの思惑もある。金のかかる屋根面の集熱オプションの導入はその後のはなし−。
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日本インテリア学会中国四国支部