------
1JI'CS
/
エコデザイン
空気の品質と値段
011
- - - Aug./2000
佐々木ひろみ
松山東雲短期大学

■エッセイ to indexes

 今日の社会では、商品やサービスを手に入れようとするとき、お金を払わなければ、何一つ自分のものにすることはできない。空気は商品やサービスではないが、タダで必要なだけ使うことのできる唯一のものだと長年思ってきた。 ところが最近、住宅や建築分野で起こっているシックハウス症候群が、クローズアップされるに従って、わたしは、これまでの考えを変えざるを得なくなってきた。「いよいよ空気にも品質が問われる時代になってしまった。品質がうんぬんされ始めたものは、必ずお金がかかることになる」と。
 シックハウス症候群とは、建物の材料に使用される防腐剤、防虫剤、合板の接着剤、塗料などに含まれる揮発性の化学物質によって引き起こされる健康被害のことである。これらの化学物質は目に見えないが、絶えず室内の空気中に放出される。室内にいる人は、その空気を吸う。微量の化学物質でも、長時間吸い続けていると、アレルギー症状や、視覚障害、集中力低下などの症状を引き起こす可能性が警告されている。政府も平成8年から「健康住宅研究会」を発足させた。
 新築住宅を訪れて、鼻にツンとくる臭気を感じたことがある人は、かなり多いはずである。最近の新築住宅は、ヒノキの香りや、まあたらしい畳の香りがしない。何か化学薬品のような、刺激臭がする。
 昨年、新築マンションに入居したわたしは、以来、化学薬品臭のするへやで、生活している。臭覚と味覚は人一倍敏感であることを、ひそかに自負していたのだが、こうなってみると具合が悪い。数多い化学物質のうち、ホルムアルデヒドの放出量は、比較的簡単に測定できる。ここはひとつ専門家らしく、科学的に測定することにした。フローリングの床にビニールクロスという一般的な仕上げの、我が家の居間を測定して、愕然としてしまった。政府のガイドラインに示された数値の5倍だったのだ。この日から、居間の換気扇は、夜間もフル稼働することになった。
 実は住宅引き渡しの際、「こんなブサイクな換気扇は、取り外して下さい」とやり合った代物なのだが。今となっては、大いにありがたい存在になっている。部屋のすみずみに置いてある木炭は、有害物質を吸着するようにとの判断。気休めかもしれないが・・・。そして今、買うべきか否か、思案中の空気清浄機。
 シックハウスの問題には、さまざまな原因がある。最近の高気密・高断熱の住宅構造によって、室内の空気が入れ替わりにくくなってきたこと。新建材が多く使われるようになり、自然の素材が住宅の中から徐々に消えていること。さらにエアコンや床暖房のような、ハイテクを利用した快適性に頼りすぎ、自然条件を活かした家造りを軽んじてきたことなど。
 住宅は個人の大切な財産。社会的には、その国の文化のバロメーター。それゆえに、住宅が国民の健康をじわじわとむしばむ状況は、一日も早く解決されなければならない。
(愛媛新聞「四季録」'98.11.19)から転載
-
-

日本インテリア学会中国四国支部