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エコデザイン
元気が出る部屋?
008
- - - Aug./2000
佐々木ひろみ
松山東雲短期大学

■エッセイ to indexes

 
 「最近のお客さまのニーズは、元気が出るというのがキーワードです」

これは先日、売れっ子インテリアコーディネーターとの会話の中で聞かされた言葉である。
 インテリアコーディネーターとは、インテリアデザインというアートの分野と、インテリア商品のセールスという現実の分野を結びつけ、消費者の要望に応じて快適空間を提案する人である。
 売れっ子コーディネーターは、さらに続けて言った。「一昔前のお客さまは、落ち着ける部屋やくつろげる部屋を希望されたのですが・・・。最近は元気が出るインテリアにして下さい、と言われる方が多くなりました」
 何かが変わり始めている。これが、私の偽らざる印象であった。何かとは、つまり人々が住まいや室内空間にもとめる、機能や役割のことである。
 これまで、あまりに当然のこととして、住宅は疲れた心と体を休める場所であると考えられてきた。睡眠や休息、団らんは、住宅の数多い機能の中でも、極めて重要なものと考えられている。だから、生活上のストレスが増大するに従って、現代人は癒しの場として、住まいの快適性を求めてきた。例えば部屋を構成する内装材や、配置される家具、窓辺を飾るカーテン、適度の照明などは、人の心に影響し、気分の明暗をも左右する。これがインテリアデザインの大きな力である。
 過酷な競争社会を生き抜くビジネスマンにとって、疲労困憊した我が身を横たえ、深い休息と睡眠に導いてくれるような部屋が、住宅には必須となる。
 ところが、安らぎとくつろぎのインテリアどころか、元気のボルテージを挙げてくれるようなインテリアを望む人が多くなっているとは。
 「24時間闘う男の××」。テレビコマーシャルは、ドリンク材の名前を、繰り返しわれわれの耳に吹き込む。24時間闘うことができなければ、この競争社会から脱落するかもしれないという焦燥感をあおるように。
 住宅は家庭生活を入れる器である。器である住宅が変化の兆しを見せ始めているということは、家庭生活にも変化が起こっているということである。家庭生活から憩いやくつろぎが消え始めているとしたら、そして、住宅がもはや休息の場ではなく、職場の延長と化し始めているのだとしたら、深刻な事態である。
(愛媛新聞「四季録」'98.10.22)から転載)
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日本インテリア学会中国四国支部