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エコデザイン
ペンシルビル pencil building
007
- - - Aug/2000
金堀 一郎
住宅デザイン研究所

■デザインノート(秘話) to indexes

1.Why Pencil ?
 竣工前から、話題が多かったペンシルビル。広烏の中心地街角に鉛筆を立てたオシヤレな小さな建物、鉛筆を立てているのでペンシルビルと思っている人が多いのでは。実は−

    Produce/Ecology/Nature/Coodinate/Incentive/Life

 内装建材の問屋のオーナーであるクライアントから、「本社跡地に新世紀を睨んだ新しい事業に相応しい建物」との依頼、若いStfがボリュームを検討をし、エコロジーを建物デザインにどう表現すべきか思考を巡らせているとき(クライアントと筆者はここ数年来、エコのテーマに取り組んできた)、エンピツが閃いた。削ったときのあの香しい人のかおり、古典的、知的センス、ほどほどの不便さ、自然への回帰、美と健康、このイメージだど確信した瞬間だ。
 新世紀の企業はエコロジーのモノとコトをプロデュースする使命がある。ネーチュア感覚が必須。新会社のコンセプトは「エコロジカルライフスタイルの提唱と街や暮しに刺激を創造して行くこと」、こうして、新社屋のイメージ、ビル名、そして新会社名までペンシルに決まった。

2.エコロジー建築の仕掛け
 設計に着手した頃、産業界や経営者の間では、「エコロジー活動を推進すると、経済活動にブレーキが掛かる」との認識が支配的であった。エコロジカルな建築は建築費が高くつくと云うことも否定できず、コストの問題解決が第一関門、この問題については、エコロジー時代の価値観ば「簡素」であり、「簡素な美」のという観念で解決の糸口をつかんだ。構造躯体をシンプルにすること、無駄な装飾を排除し、簡素な美の表現につとめた。
 数年前、エコポリスとして注目されているドイツ南西部の都市、フライブルグを訪ねた。そのときバウビオロギーというものに大変興味を持った。バウビオロギー(建築生物学)という建築スタイルは、ドイツで1982年に30名余りの建築家が集まり、建築生物学連盟(BUND ARCHITEKUR UND BAUBIOLOGIY)を設立したのが始まりという。フィンランドにスカンセンという大規模な民家園があり、北欧の伝統的な民家を時代別に数十棟移築しているが、ここで切妻屋根に雑草を生やした古民家が強く印象に残っている。ドイツでバウビオロギーに出会ったときは、温故知新の想いであった。ペンシルピルでバウビオロギーを実践したのは、このような体験からだ。バウビオロギーは建物と植物の有機的融合であって、手入れをしないでその環境、例えば屋上で生き残る雑草を生やそうというもの。具体的には屋上アスファルト防火の上に妨根シートを施し、20cm程度の客土をのせ雑草を生やしている。竣工時、客土にクローバー(白詰草/マメ科の多年草)を蒔き、早期の緑化を図った。

3.微粉炭添加コンクリート打設工法への挑戦
 古き時代には、重要建築物の床下地中に埋炭をしていたと云う言い応えがある。埋炭とは建築予定地に深さ2〜3メートルの穴を掘り、木炭を埋設し土を埋め戻し、その上に大切な建物を建てるというもの。木炭を埋設する効果は、木炭炭素の近傍に生成される負イオン環境に拠るものではなかろうかと推測される。建築物の躯体コンクリートの中に微粉炭または、炭素成分を添加すれば、建物室内に負イオン環境を隼成させることができ、室内環境の快適性さを促進する効果を期待して、ペンシルピルに微粉炭添加コンクリ←ト打設工法を試みた。
 建築物の躯体コンクリートの中に微粉炭を添加するには、コンクリート強度の確認が必要で、広鳥工業大学の佐藤立美教授の指導を仰ぎ、ある一定範範囲内の微粉炭の添加であればコンクリート強度に問題はなく、低層ビルならよかろうとの実験結果を頂いた。新しい試みには乗り越えなければならない幾つものハードルがあり、生コンヘの微粉炭の混入は、生コン車が建設現場到着時に、設計管理者が自ら行うという苦労の一幕もあった。

4.建築指導課の困惑
 竣工を間近にした頃、ペンシルビルがエコロジー建築ということで新聞紙上に大きく取り上げられた。ところがその一節に「木炭の微粉を練り込んだビル」と紹介され、行政当局へ「コンクリートヘの微粉炭の混入は混和剤になるのでは?」と詰め寄る者が現れた。
 明確な判断の出せない行政当局者から、資料の提出や説明が何度も求められ、このことで延べ何十時間という無駄な時間を費やす羽目となる。それでも判断が出せない当局者は、建設省の建築指導課に指示を仰ぎ、今度は建設省と長距離電話と時間を費やすことにハマってしまう。建設省の若い係官は詳しいことが聴きたいので上京してほしいと言う。放ってもおけないので上京して建設省を訪ね、強度上問題のないこと、炭素成分は細骨材の置き換えであり混和剤ではないことを説明して納得を得るが、鉄筋などへの長期的な影響を考慮して、建築評定を取ることを勧められる。
 もう一つのトラブル、竣工検査で「1階屋上テラスのパラペットの手前に手摺を付けよ」という指示が出た。ペンシルピルのオープンは1998年7月7日と決めていたので、従わざるを得ないこととなる。1階屋上テラスのパラペットの先には、バウビオロギーの演出と建物のデザイン上から緑化スペースを設けており、転落の危険性はない設計となっているのだが−。

5.竣工後2年
 新しい試みは、いつも各種の法規制と行政指導との戦いとなる。安全性や秩序を守るため、建築の法規制は必要であるが、これが建築活動の創造性を阻害する一つの要因になり、画一的な町並やデザインになっていることは否めないし、建築コストを押し上げそのツケがクライアントにくることも否定出来ない。行政改革と規制緩和の時代、建築の法規制も、もっと緩和すべきと思うし、建築行政も柔軟な対応が必要な時代と思う。生活者(クライアント)も無駄なコストをなくするため、自の安全は自ら守るという認識が必要と思う。
 竣工後2年、当初意図したことは、ほぼ良い結果が得られている。シンボルとして鉛筆を建てた事も立地に融合し、効果も期待を上回っているようだ。非常勤講師をしている女子短大で新学期のとき学生に尋ねてみると、鉛筆を建てたビルと云うことで認知度は意外に高い。
 微粉炭添加コンクリートの効果は、コンクリートの消臭、結露防止、室内のマイナスイオン効果など定量化はまだ出来ていないが、クライアントからは評価して頂いている。屋上のバウビオロギーも定期的に植物の育成を写真撮りしているが、水やりもしないで放置した屋上の過酷な環境下で、常識を脱しクロバーがよく成長している。これもマイナスイオン効果であろうか?

6.建築データ
名称/ PENCILビル
所在地/ 広鳥巾中区袋町7−21
竣工/ 1998年7月7日
用途地域/商 業地域
構造/ 鉄筋コンクリート造3階建
敷地面積/ 327.25 u
建築面積/ 257.92 u
延べ面積/ 605.94 u
  3階  208.96 u
  2階 178.76 u
  1階  218.23 u

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日本インテリア学会中国四国支部